【アウトドア&持ち運び用】旅するミニベース『#14 – Cetus mini』【楽器製作所RMI】

どうも、るいなです。オタクです。

普段は山梨県でギター工房を運営しています。

あとは記事を書いたり、好き放題をしています。

特技はエレキギターやベース、アコースティックギターの修理。

趣味は廃墟で楽器を振り回すことです。

今回も屋外で、新作の楽器を振り回してきました。

ロケ地は廃道。ドライブ中に見つけた、お気に入りの場所。

新作の名前は『#14 – Cetus mini』。

読み方は“なんばーじゅうよん、けーとすみに”。

キャンプやバーベキューなどのアウトドアで、焚き火をしながらポロロン鳴らして遊んでみたり。仕事で出張に行く際、こっそりアパホテルに持ち込みたい“ミニベース”。

ウクレレのケースに収納できるようにつくったので、気軽に持ち出してお出かけをすることができる。

“一緒に旅するベース”、そんなコンセプトで製作を開始した。

始まりは冬。ヤンキー座りでボディ材を貼り付けることとなる。

ボディの材質はスポルテッドオーク。こう見えても立派な木材。

ただ、この大航海時代の宝の地図のような柄を持つ木材はとても脆い。

通常のオークという木材は、家具にも使われており、馴染みが深い。

しかし、“スポルテッド・オーク”は聞き覚えがないはず。

スポルテッドとは、簡単に説明すると菌類による木材の腐敗らしい。

木材の隙間に水分が入り、そこから菌類が繁殖する。そして木材を腐らせ黒い柄が出現するとのこと。

個人的には、“バクテリアの生存権争いの痕跡”だと思っている。

こうして、ミクロの世界で何十年もの時間をかけて生成されるため、スポルト材は凝縮した大自然を楽しむことができる木材のひとつ。

そしてこの“スポルテッド材”という朽ちた木材をボディのメインに使う楽器は少ない。

なぜなら柔らかく、すぐに砕け散るから。

しかし、この“スポルテッドオーク”は何故か硬い。いや、なんでだよ。

謎過ぎるけど、落としたり叩いたり潰しても、ボロボロに砕け散ることはなかった。

そのため、ボディに丸々使用してみた。

一応、強度や音質を考え、中心部には硬くスポルトしていない部位を使っている。

画像中央上 : 色の濃い部分は朽ちておらず、とても硬い。

そんなスポルティング・オークを保護する塗装は「プルプルグロスフィニッシュ」。

これ、実はマット(艶消し)にするか、グロス(艶アリ)にするかInstagramでアンケートを取った。

結果、マットフィニッシュを希望する声が圧倒的に多かった。

でもごめん、グロスにしちゃった…

アンケートで聞いた意味がまるで無い。

ネックシェイプはいつもの左右非対称。

1弦側が分厚く、4弦側が薄い。

2016年製のSkervesen Guitars を軸に、さらに極端に傾斜をつけたようなイメージ。

ヘッド裏とネックグリップの境目もみてほしい。

ほぼ同じ高さにも関わらず、しっかりとボリュートを感じる段差。

弾き心地にはなんのメリットもない。

むしろ、凹凸が邪魔で演奏する際はデメリット。

許してほしい。

単純に造形を楽しむ楽器があってもいいじゃないか。そう思うことしか出来ない無駄なボリュート。

まあ、機能的には無駄。無駄をどれだけ楽しめるか。これは人生。話が壮大過ぎ。

ネック自体の素材はメイプル。

ノリノリでボディと接着した思い出。

そして指板もメイプル。

デザイナーにオーダーした直筆のインレイが目を惹く。

そう、今回はフレットレス。“フレット”という金属の棒が無いため、好き放題してくれと頼んだ。

機能としては無意味だけど、フレットレスベースだからこそ出来るデザインに仕上がった。

ヘッドにも描いてもらった。

普段は下の画像のように、別の木材を貼り付けて境目を作っているが、今回はイラストで表現していただいた。

ちなみに、このヘッドシェイプの名前は“Cocytus”。

コキュートスヘッド、と呼んでほしい。

これは1作品目の楽器からずっと使っているデザイン。

ナルシストなので、このヘッドが世界で1番かっこいいと思っている。

そして、ボディシェイプの“Cetus(ケートス)”はくじら座を意味している。

理由はボディの形がくじらの横顔に見えたから。

そのケートスのミニバージョンなので“Cetus mini(ケートスミニ)”と命名。

安易すぎるけど気に入っているのでヨシ!

続いて、肝心の音を出すためのシステムについて紹介する。

ご覧の通り、音を取るピックアップと呼ばれるマイクは見当たらない。

音量を調整するつまみもない。

ボディには何にもない。

しかし、安心してほしい。

音は“ピエゾピックアップ”で取ることができる。

簡単に説明すると、このピエゾタイプのピックアップは弦の振動を音という信号に変換している。

ちなみに普通のエレキギターやベースは“マグネティックピックアップ”が搭載されている。これは磁力で弦の音を増幅する仕組み。ピエゾピックアップとは根本的に構造が異なる。

どこにそのピックアップがあるのか。

答えはサドル下。

ミミズみたいな赤い線。これがピエゾピックアップ。

ちなみに、この赤いラインが透けて表に見えるようになっていることにお気づきだろうか。

そう、この赤色を使わない手はない!

ということで、サドルを透明にしてある。

下に仕込んだ赤いピエゾピックアップの色を、サドルの表面に浮き出すことに成功。

血管みたいで本当にかっこいい。

ところで、音量はどこで調節すると思う?

答え : 調整しない。

アンプに繋げばすぐに音が出る。

そもそも、ミニベースは旅行などの出先で気軽に音を出して遊ぶための道具。

トラベルベースとして仕事は、ボリュームノブなんて無くても十分に果たしている。

とはいえ、後からつまみを付けることができるようにスペースは確保してある。

困ることは何もない。

てか、このアクアリウムみたいな裏蓋はなに?

シールドを繋ぐための銀色のシリンダージャック。

六角の黒いネジと、それを締結するインサートナット。

木材を魅せるため、側面に這わせた配線材。

そして、ボディ材であるスポルテッドオークの断面。

この全てを、ロゴが刻印されたアクリル越しに眺める。

故に、アクアリウム。

裏蓋は厚さ10mmで削り出した。八景島シーパラダイスの水槽とほぼ同じ厚み。

透明であるため、ネジの頭が埋まるように仕込まれていることがはっきりわかる。

そしてこの厚みには理由がある。

斜めから見ることで、このようにロゴが二重になるのだ!

普通のギターやベースのような、5mm前後の裏蓋ではこのような表現は出来ない。

正気の人間がやることではないので、アホの裏蓋と呼んでいる。

そして、ナットもサドル同様にアクリルで製作した。

普通の楽器と大きく異なるのは、このナットの埋め込み方。

よく見ると、指板の端までナットが通っていない。

『指板の“中”にナットを埋める』

これが本当に弾きやすい。

ナットの端に指が当たらないので、握り込んだ時の優しさが違う。

あまりにも優しい。そして見た目が美しい。

アクリルナット。アクリルサドル。アクリル裏蓋。全てアクリルで統一。

最後に少しだけ、このよくわからない構造について語らせてほしい。

オタク特有の早口を惜しみなく展開することになるので、読み進めるには少し覚悟が必要。

見ての通り、ネック材がボディの外側まで突き抜けている。

この構造を持つ楽器は世界的にも数が少ないんだけど、見た目だけでなく、機能的にも優れていることに気が付いた。

まずは普通のジャズベースと比較してほしい。

RMI #11 – Cthulhu

一般的なベースは、このように“ボディの内側”にネックや指板を収めている。

しかし、この構造はその当たり前を打ち壊す。

このように指板とネックを“ボディの外側”に突き出すことで、弦を留める位置をどこまでも伸ばすことが可能となった。

つまり、弦長(スケール)を好きな長さに設定することが出来る。

スケール伸ばし放題。

「扱いやすいボディサイズでも、鳴りはしっかり欲しい」

特に小柄な日本人には、このような希望を持つプレイヤーが多い。

このデザインはボディサイズを変えずにスケールを伸ばすことが出来るため、その希望を果たせる。

ひとつの正解だと思っている。

みて。

ボディの外側から弦が張られているグフフ…

先ほど説明した構造により、普通のベースでは考えられない位置から弦が張られている。アホ。

サドルも弦のボールエンドも、全部ボディの外側に出ているグフフ…

あと、ネック材がブリッジの機能も兼ね備えている、この機構がたまらない。つくるのめちゃくちゃ大変だけど!

この構造で有名なのはStradi bassさん。ストラディのファンとして、いつか実現させたかったデザイン。ようやく形にすることが出来た。

ちなみに、この楽器はマルチスケール。

マルチスケールとは…
ひとつの楽器の指板に複数のスケールがあること。主に低音弦側が長く、高音弦側が短いスケールで構成される。ギター・ベース問わず普及している。ダウンチューニングを多用するメタル系の楽器に採用されることが多い。

というわけで、ファンドフレットとほぼ同じ意味で使われていることが多い。

だが、今回は敢えてマルチスケールと呼ぶ。フレットがないからね。

オタクだけが気にしている、マルチスケールのインチ差は以下の通り。

一般の方はスルーしていただいて構わない。

インチの差“20~17inch”。
ミリに換算すると“510~432mm”。
4弦が510mm。1弦は432mm。

なぜミニサイズのスケールを採用したのか。

それは、ウクレレのケースに収納したいから。

専用のケースを必要とせず、市販で売っているウクレレのケースで持ち運びできること。

これが魅力的すぎる。

ウクレレのように気軽に旅行に持っていける、一緒に旅をするトラベルベースをつくりたかった。

ちなみに4弦の弦長はバリトンウクレレと同じ。

1弦の弦長はテナーウクレレと同じ。

エレキウクレレベースという解釈も出来る。

『Beta Strings』
ウクレレ専用フロロカーボン弦
【楽器製作所RMI】

以上、楽器製作所RMIより新作『4弦フレットレスマルチスケールミニベース』の紹介でした。

どう考えても要素が飽和している。

ここまで読み進めることができた人、いるのかな。

もし、いらっしゃいましたら、Twitterのいいねとか何かしらで反応してほしいです。励みになるから…

【協力】※敬称略

962wood works:裏蓋の刻印

kono.:指板のインレイ

妹:撮影の手伝い

おわり。

3件のコメント

  1. すごすぎる。

  2. めちゃくちゃ気になる楽器たちです。
    とにかくデザインセンスが素晴らしい
    音が聴きたい!
    ぜひ弾きたいです!

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